INTERVIEW

フレデリック✕須田景凪 対談

《前編》

フレデリックの三原健司(Vo/Gt)・康司(Ba)と須田景凪によるスペシャル対談が実現した。

EP「ANSWER」から11月5日に先行配信リリースされた「ANSWER」は両者による初のコラボレーション楽曲。人気RPG『テイルズ オブ』シリーズの新作アプリゲーム「テイルズ オブ ルミナリア」のオープニングテーマ、エンディングテーマを手掛けたフレデリックと須田景凪が、共同制作の形でインスパイアソング「ANSWER」を完成させた。

かたやフェスシーン、かたやネットシーンと出自こそ違えど、お互いに親交も深く、音楽的にも認めあいリスペクトしあっているという両者。対談の前編では、その出会いから、「ANSWER」の制作風景、楽曲に込めた思いを語り合ってもらった。

――お互い、コラボ以前からお互いに面識はあったんですか?

須田 自分は昔からフレデリックを聴いていましたが、ある日、インスタのストーリーに健司さんがコメントしてくれたことがあって。「見てくれてる!」って気付いて、健司さんに「ぜひ飲みに行きたいです」と話をして。そこから仲良くしていただいて、2年前くらいから、2人で飲みにいったり、色々と交流がありました。

――健司さんが須田景凪さんを知ったのはどういうきっかけだったんでしょう?

健司 もともと同じA-Sketchなので紹介していただいたタイミングがあったんですけれど、最初は須田景凪というアーティストとバルーンっていうアーティストが同一人物だと知らなかったんです。でも、そこからいろいろ知って、いわゆるバンドシーンでやってきたフレデリックとは別の世界からやってきた人っていうイメージがあって、すごい興味があって。仲良くなりたいなって思って、声をかけたという。

――須田さんはいつ頃からフレデリックを聴いていたんでしょう?

須田 出会いとしては「峠の幽霊」がリリースされた頃から知ってました。その時はフレデリックという名前はちゃんと覚えてなかったのですが、そこから数年経って「オドループ」や「オンリーワンダー」が出て、そこからフレデリックという格好いいバンドがいるって知って、さかのぼって聴いてみたら「峠の幽霊」の人たちだったんだ!って気付いたという感じです。

――どういうところが好きになったポイントでしたか?

須田 一番大きいのはメロディです。自分が聴いてきた音楽、やってきた音楽とも通じる部分のひとつとして、大前提としてめちゃくちゃキャッチーだし、一回聴いたら覚えるものばっかりだったんですよ。その印象深さがすごく好きでした。自分が聴き始めた時期は、いわゆるダンスロックを軸にした曲が多かったと思うのですが、自分も昔ドラマーとしてバンドをやっていた時にはダンスロックが一番好きで、ダンスロックのバンドをやっていました。自分の好みにも当てはまるし、憧れにも似たような感覚がありました。

――健司さんが須田景凪というアーティストに興味を持つようになったきっかけは?

健司 出会った頃って、フレデリックが1年で全国ツアーを3本くらいやっていた時期だったんです。めちゃくちゃライブが多くて、セットリストをやたら決めていて。そこから中毒みたいになって、他のアーティストのセットリストを作るのにもハマっていて。だから音源を聴いて「須田くんのセトリ作りたい」って最初に思って、最初に飲みにいったときもその話をしたんです。今考えると、初対面でめっちゃキモいですけど(笑)。

須田 画面を見せてくれて「セトリ、こんな感じでどう?」って(笑)。「こんなことしてくれるの、この人?」って思いました。実際、凄く参考にもなったし、とてもうれしかったです。

――康司さんはどうでした?

康司 前から、僕もバルーンの「雨とペトラ」を聴いていた時期があって。そこからどんどんいろんな曲を聴くようになって、僕自身、音楽的な部分で共通点を感じていたんですよね。音楽性にしても、歌詞の言葉にしても、もしかしたら同じ情景が見えているんじゃないかなっていうのが、すごくあったんです。そこから、こうやって健司と須田くんと縁があって、改めて一緒に話してみたら、すごく気が合った。不思議な出会いだと思います。

健司 俺も会わせたかったんですよね。康司と絶対に気が合うと思うし、作曲者として話しているところが見たいというのもあった。それで3人で飯に行ったんです。

――活動していた場所は違っていても音楽的な共通点があるということですが、それはどのあたりに感じていたんでしょう?

康司 やっぱり、それぞれがいたシーンの意識があると思うんです。J-ROCKとかボーカロイドみたいな界隈もあるし、そういうところでボーダーラインは引かれるものだけれど、もっと広く音楽を見ている感覚があって。そういうところにすごく共通点を感じました。アルバムの中身だったり、それぞれが感じている音楽性の幅広さの部分でも話が合うし、今回の楽曲を作っていく中でも共通点があった。僕はそういうところが似てるのかなって思いました。

須田 楽曲が似ているっていうよりも、そこに向かうスタンスがすごい近いと思います。お互いに意識していない根元の個性みたいなものがあって、いろいろ音楽性は広げていきつつも、その個性だけはブレることがない。だからこそ、何を作ったとしても揺るがないものがある。そういうところが近いのかなって、個人的に感じています。

――健司さんとしてはどうですか?

健司 僕はボーカリストとして2人の楽曲を歌って、単純にメロディに共通点があると思いましたね。メロディの上がり方とか下がり方とか展開とか。フレデリックの曲をずっと歌ってきていたから、そこに慣れているのは当たり前なんですけれど、須田くんの曲を歌った時に、なんだか馴染みのあるメロディだなって、身体で覚えている感じがあった。そこは間違いなく共通点としてあるなって思います。

――コラボ曲「ANSWER」の制作はどういう感じで始まったんでしょうか?

須田 それぞれ『テイルズ オブ ルミナリア』のオープニングとエンディングの話をいただいた時に、親交があるからコラボしてみたらどうだろうという提案をいただいたんです。そういうお話をいただいて、めちゃくちゃやってみたいっていうところから始まりました。

康司 それはもう是非是非という感じでした。

――具体的にはどんな形で共作を進めていったんでしょう?

康司 最初は、とりあえずお互いにワンコーラスずつ曲を出して。どの形にするかを話して、そこでまずは土台を決めて。そこから自分が歌うパートを話し合ったり、一緒に会って歌詞を考えたりしながら作っていきました。

須田 康司さんが最初に出してくれた曲が、一緒に作り込んでいけそうなものだったし、ゲームのテーマともリンクしそうだったので。その曲をベーシックに作り上げていきましょうみたいな感じでした。

――「ANSWER」は「テイルズ オブ ルミナリア」のインスパイアソングとして作られたということですが、そのテーマとはどんな風にリンクしていたんでしょうか。

康司 「ANSWER」で自分的には書きたかったことが、今回の「テイルズ オブ ルミナリア」のテーマともマッチしていたんですよ。「テイルズ オブ ルミナリア」の今回のテーマは「僕の正義が、君の正義を殺すとしても――」というもので。『テイルズ オブ』シリーズって、いつも「正義」という言葉が裏返るんですよね。作品の中で、正しいと思っていた側が敵になったりする。もともとそういうメッセージ性が込められている作品で。そういう「正義」とか「正解」という言葉に対して、自分もずっと疑問視していることがあったし、今の状況下で感じていることもあったんですね。そこから、違う2組が一緒にタッグを組んで曲を作るという姿勢がひとつの正解になるかもしれないということも感じていて。だから、お話をいただいて正直うれしいっていう気持ちがめちゃめちゃ強かったです。

――共作というのはデータのやり取りとかではなく、実際に顔を突き合わせて作っていったんでしょうか?

須田 最初の段階ではデータのやり取りでしたけれど、歌詞だったり細かいニュアンスは、僕のスタジオに来ていただいて作っていきました。

康司 一緒に打ち込んだりしましたね。こういう形で共作するのは初めてだったんで、探り探りでしたけれど、でも、かなりいい時間でした。俺は、一緒に歌詞を考えている時間が好きだった。

須田 あれ、よかったですね。

康司 ふたりとも、1、2時間ずっと黙って歌詞だけ考えていた時間があって。

須田 サビのメロディとか、細かいところも「これはどうですか?」「これはこっちのほうがいいよね」とか話し合いながら一緒に作っていったので。歌詞も、1番はフレデリックが書いて、2番が須田が書いて、Dメロは一緒に書くっていう。自分も初めてだったんですけれど、本当に共作でした。

康司 貴重というか、素敵というか、すごい経験でした。

――健司さんは、ふたりのソングライターが共作で作っていく過程や、できあがった曲を、どんなふうに見ていましたか?

健司 これ、俺が言うことじゃないと思うんですけど、うまいことまとめられたなって(笑)。

一同 (笑)。

健司 この2人のことを一番知っているのが俺だと思うし、このコラボレーションは間違いなくいいものになるだろうなって確信があったんです。自分は理論立てて話すことはできないけど、音楽的な背景も通じ合ってると思うし、須田くんと康司の2人が話し合ってひとつのものを作り上げていけば間違いないものができるとずっと思っていて。というのも、もともとフレデリックがすごく大事にしているところって、お互いの楽器やフレーズの意味をしっかり考えて、隙間を大事にするっていうことなんですよね。そこを須田くんも持っているし、そこの感性が一緒だという確信があって。それが作品にもしっかり出たなっていう印象を感じました。

須田 Dメロの歌詞を1、2時間一緒に考えて、やっと「この感じならいけそうですね」ってなった10分後くらいに、フライドチキン食いながら健司さん来ましたもんね(笑)。

康司 プロデューサーかっていう(笑)。

須田 それで、仮歌を歌って帰っていきました(笑)。

――ボーカリストとしてはどうでしょう? 交互に歌ったり、声を重ねたり、同じメロディを二人が歌い分けることで、お互いの声や歌いまわしの違いも見えてくると思うんですが。そのあたりはどうでしたか?

須田 自分はリスナーとしてフレデリックの曲を聴いてきて、自分の声と相性がいいのかどうか、最初は心配があったんです。でも、いざスタジオで歌って、混ぜてみたら、思ったより相性がよかったですね。声の成分的な話になっちゃうんですけれど、同時に歌ったときに混ざる部分もあれば、絶対に混ざり合わない場所もあって。すごい面白い刺激になるんだなって感じました。

健司 自分は混ざり合う想像をしてなかったですね。対立っていう意識もあったし、お互い音域や声の出し方や気持ちいい声が出せるところが違っていて。たとえば自分は地声で歌ったほうが気持ちよく聴こえるけど、須田くんはファルセットで歌ったほうがよかったり。そういうところで羨ましさもあったり、単純に勉強になったところも沢山ありました。「こういう歌い方のパターンがあったのか」って思わされるときもあったし。

須田 それはこちらも凄くありました。

――須田さんは共作自体が初めてに近いということでしたけれど、どういう新鮮さがありましたか?

須田 そもそも今回は「フレデリック×須田景凪」という名義で、こういう形で他のアーティストと曲を作ることが初めてだし、自分の曲の中に別の人が書いた歌詞やメロディが入ってくる想像は今までしたことがなくて。好きだけど自分とは合わないだろうなっていうアーティストもいる中で、フレデリックだからこそ一緒にできたと思います。制作を続けていると、どうしても譲れないポイントみたいなものが増えてくるんです。でも、フレデリックと一緒に制作をしている時には「こういうのはどう?」って提案に的外れなものがなくて。お互いのいい部分を引き出し合うような感覚がすごくありました。人と関わること、共に何かをするのって、リスクも伴うことだと思うんですけど、いいところだけ引き出し合いながら作れたかなって感じていて。人と何かをすることに対しての印象も変わった気がします。

――康司さんはどうですか?

康司 お話が来た時からワクワクしてましたね。須田くんが話していたことにも通じるんだけど、僕は今の時代、前提が違う人と一緒に、同じ立場に立って物事を考えるのってすごく重要だと思っていて。こういう状況の中で、誰しもがそれぞれに不安を持っていたりすると思うんです。そういう時に、自分たちの知らない初めてのやり方で一つのものを作り上げるというすごく大変なことに、勇気をもって挑むことができた。しかも、それを楽しくやれたというか、一緒に面白く「この曲いいじゃん!」って感じで作り上げることができた。いろんな分断がある今の時代の中で、そういう姿勢をアーティスト側が提示できたということにも、すごく希望を感じていて。そこが今回の作品自体のメッセージになっている気もします。

――今康司さんが仰ったことって、「ANSWER」という曲のテーマやメッセージ性とも結びついていることですよね。さきほど「正義」や「正解」というものが曲のモチーフになったということを言っていましたけれど、それぞれ違う正解が一つになった曲とも言えるわけで。

康司 そうですね。テイルズの物語自体もそうだし、須田くんは須田くんで理想とする正解があるし、僕ら自身にも正解がある。それは同じ場所にあるものじゃないとは思うけど、でもそれをお互いに尊重し合える。そのことが、今、こういう時代の中ですごく必要なことだと思っていて。そういう曲を今このタイミングで生み出すことができたというのも不思議な縁みたいなもので。やっぱり音楽って繋がりを生むし、素敵なものだなって改めて感じ取れた経験でもありました。

――須田さんはどうでしょう? 今康司さんが言われたような、それぞれの異なる正解、異なる理想が重なり合うという曲のテーマについては、どんなことを考えましたか?

須田 自分にとっても、お互いそれぞれの正解を尊重して、それをひとつの枠組みに入れるというのはすごく大きなチャレンジだったと思います。フレデリックともよく話すのですが、この曲って、仲良く一緒にデュエットで歌っているというよりも、アーティスト同士で音楽で殴り合っているようなイメージがあって(笑)。

健司 理解しあってるからこそ、そういうことまで話せるという。

須田 プライベートでの関係性もあって、お互いの正解を妥協せずに出し合えた。自分はそれが一番うれしかったですね。

interview:柴 那典

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